いのちドラマチック「オオクワガタ ビンで生まれる黒ダイヤ」のメモ

番組詳細

タイトル: いのちドラマチック Vol.13「オオクワガタ −ビンで生まれる“黒ダイヤ”−」
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放送日: 2010年09月09日(木)
内容:

「黒いダイヤ」とも呼ばれるオオクワガタ。現在は、ほとんどが養殖だ。大きいものでは体長が8センチ以上と、自然界ではありえない大きさ。幼虫を、朽ち木とキノコの菌糸が入ったビンの中で育て、大きくする。このビンの登場で、マンションの室内でも簡単に育てられるようになった。しかし、野生のオオクワガタは、乱獲などの影響で絶滅の危機にひんしている。高い人気ゆえ、人との関係が大きく変わった数奇な物語を見つめる。

出演者

以下、視聴メモ。

ペットショップに並ぶオオクワガタ

その魅力は大きさと形。大きなものは80mm以上にもなる。ショップに並ぶ(ほぼ)全てのオオクワガタは人工的に作り出されたものである。

サイズ
自然界(日本の?) 30〜50mm
人口繁殖 60〜80mm
各地で採集された個体が人の手でかけ合わされ、自然界のものよりも大きくなるように育てられている。大きなオオクワガタを作り出す養殖は(今でも)一種のブームだ。

より大きなオオクワガタを作りたい

最初にオオクワガタブームがおこったのは1980年代。80mmを超えるオオクワガタには1000万円もの値段が付いたほどだ。
ゼロコンマ1ミリを争う激しい競争の結果、より大きなオオクワガタが次々と作り出されていった。

養殖

オオクワガタは「卵→幼虫→二回脱皮→蛹→成虫」と成長してゆく。

  1. 優れた雄と雌を選び出し、交配させる
  2. 交配がうまくゆけば、メスは卵を木の中に産み付ける
  3. 幼虫を取り出し、栄養が豊富な瓶に移す。(本来、オオクワガタは木の中で成虫まで過ごす)
  4. 瓶は成長に合わせて取り替える
  5. この段階で、いかに多くの餌を食べさせ、太らせるかが大きなオオクワガタを作り出す鍵となる (成虫が大きくなることはない)
  6. 幼虫は瓶の中で蛹になり、約一年で成虫になる

成長するのは幼虫の間だけ。外骨格に覆われてしまうので、蛹以降の大きさはほとんど変わらない。栄養が豊富な瓶とは後述の「菌糸ビン」のこと。

1992年、「菌糸ビン」の発売

菌糸ビンはキノコの栽培用に開発されたもので、中にはキノコ菌が詰められている。当時、大きなオオクワガタが採集される付近にはキノコが沢山生えていることが知られていた。人工的にキノコの菌を増やした中で幼虫を育てればより大きなオオクワガタが出来るはずと考えられた。
瓶の中には「菌糸」と呼ばれる糸状のキノコ菌とその餌となるおが屑が入っている。キノコ菌はおが屑を分解し、糖を作りながらどんどん増えてゆく。そして、キノコ菌の密度は自然界の3倍にもなる。

しかし、当初はうまくいかなかった

クワガタの幼虫はキノコ菌が作り出した糖を食べ、さらにキノコ菌そのものをも食べることで成長していく。豊富な栄養でどんどん成長してゆくことが期待されたが、幼虫が死んでしまったという報告が相次いだ。
この問題に取り組んだのがオオクワガタ愛好家の森田紳平氏

なぜ死んでしまうのか? 閉鎖された系の問題

本来、菌糸ビン(の内側)は全体が白い膜で覆われている。この白い膜はキノコ菌が作り出したバリアのようなもの。このバリアが他の菌の侵入を防ぎ、キノコ菌のみが成長できる環境を作り出している。
しかし、幼虫がキノコ菌を食べてしまう影響で環境が崩れる。そして、雑菌が侵入。さらに幼虫の排泄物が雑菌の温床となり幼虫が死んでしまっていたのだ。
幼虫を入れて数ヶ月後のビンは茶色い。それは幼虫の排泄物である。

そこで森田氏は、ビンが雑菌の温床になる前に幼虫を新しいビンに移し替える方法を考案した。が、本来幼虫は木の中で誰にも触れられずに成長する生き物。移し替えることが多大なストレスとなる。
移し替えの回数を出来るだけ減らしつつ雑菌で死なないようにするには…試行錯誤を繰り返す。

雑菌がのさばるタイミング

ビンの中に入れた幼虫は最初の2ヶ月ほどで半分のキノコ菌を食べてしまう。が、この時点では雑菌は入ってこない。
しかし、食べてしまったキノコ菌が2/3を超えると雑菌の侵入を許してしまう。
そこで 2/3を食べた時点でビンを変えれば、雑菌の影響を受けず、かつ限界まで同じビンの中で育てることが出来ることが導きだされた。。
「成虫に成長するまでにビンを交換する回数は2回」 この方法により体長70cmを超えるクワガタが次々と誕生。
森田氏はこの飼育法を専門誌で発表。2003年には82.4mmという日本記録も樹立した。

自然界に生息する数は減り続けている

久保田耕平准教授(東京大学)、オオクワガタの生態を研究。
オオクワガタが生息しているのはクヌギの林 。かつては炭や薪として利用するために人々が定期的に伐採をし、手入れをしていた。
クヌギは切られるとそこから大量の樹液を出す。それがオオクワガタの格好の住処となっていた。しかし、時代の変化で環境も変わってしまった。
さらに、人の手による幼虫の乱獲が追い打ちをかける。2007年、オオクワガタは絶滅危惧Ⅱ類に指定された。

オオクワガタが森の中で果たしていた役割

棚橋薫彦研究員(産業技術総合研究所)、昆虫と微生物の研究
オオクワガタのメスの腹部に特殊な袋があることを発見。特殊な袋とは「菌のう」と呼ばれる器官。酵母などの微生物を蓄えている。
オオクワガタと菌が共生することで朽木を分解して新しい森をつくるのに貢献しているという。

  1. オオクワガタのメスは卵を生むときに、「菌のう」の中にある酵母菌を一緒に(木に)産み付ける。
  2. 酵母菌は木を分解して幼虫の餌となる糖質などの有機物を作り出す。
  3. 一方、分解された木は土へと還る

オオクワガタはこうした行為を繰り返し、森の循環に関わっていると考えられている。