サイエンスZERO「宇宙の未来を決める 暗黒エネルギー」のメモ

番組詳細

タイトル: サイエンスZERO No.317「宇宙の未来を決める 暗黒エネルギー」
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放送日: 2010年09月04日(土)
内容:

加速しながら膨張し続ける私たちの宇宙。その原動力となっているのが謎の「暗黒エネルギー」だ。暗黒エネルギーによって宇宙の未来はどうなるのか。研究の最前線に迫る。

以下、視聴メモ。

加速する宇宙

1998年、アダム・リース博士(ジョンズ・ホプキンス大学)らは暗黒エネルギーに関する論文を発表する。
博士はビッグバンによって誕生した宇宙の膨張速度を研究していた。それまでの定説では、宇宙の膨張速度は宇宙に存在する物質の重力で遅くなると考えられていた。博士はどれだけ遅くなっているか調べていたのだ。
しかし、近くの銀河*1と遠くの銀河*2で遠ざかる速度を比較してみたところ*3、膨張速度は遅くなるどころか加速していることが分かった。
リース博士らの研究によって描かれた新しい宇宙像…ある時点から急激に加速して大きくなるというもの。
宇宙の膨張を加速させている原動力は何か?
→重力に逆らってモノを引き離す力「暗黒エネルギー」が必ずあるはずだ。

杉山直教授(名古屋大学)の解説

暗黒エネルギーによる斥力は遠ざかれば遠ざかる程強く働く。
→重力に反する力なので「反重力」とも考えられる。

暗黒エネルギーの量

小松英一郎教授(テキサス大学)らはWMAPと呼ばれる探査機で宇宙の果てから届く微弱な電波(マイクロ波?)を観測。

NASA / WMAP Science Team

→電波の分布から暗黒エネルギーの量を導き出せる。
→観測結果、暗黒エネルギーが宇宙に占める割合は72.6%

宇宙の構成

  • 銀河・星…すなわち元素
  • 暗黒物質…正体不明、宇宙や銀河といった大規模な構造を支えている

※上記のグラフはアインシュタインの式「E=mc²」に基づいてエネルギーと質量というものを一緒に取り扱った結果である。
ビッグバンから70億年までの期間は「物質>暗黒エネルギー」だった。宇宙空間の膨張に伴って暗黒エネルギーは増えているのだ。

Big Rip

ロバート・コールドウェル博士(ダートマス大学)らは、暗黒エネルギーが加速度的に増え続けるという極端な事態をシミュレーション。
→暗黒エネルギーが加速度的に増え続けると宇宙の膨張速度は際限無く速くなってゆく。
そして、宇宙は無限の大きさになり、全ては引き裂かれてしまう。これが Big Rip である。

今から1千億年後に起きる Big Rip のシナリオ

  • Big Rip の2億年前、銀河の周辺部の星が重力を振り切って飛び出す。中心部の星もまとまることが出来ずバラバラになる。そして、銀河は消滅する。
  • Big Rip の1年前、惑星の軌道にも影響が現れる。外側を回る惑星から次々と軌道を外れてゆく。
  • Big Rip の数時間前、暗黒エネルギーが星(恒星?)の内部にまで影響を与える。星は膨れ上がって爆発。惑星も砕け散る。
  • 分子や原子までもが引き裂かれ素粒子に。

暗黒物質が空間の膨張と同じ割合で増え続ければ、このような極端な事態は起きずに宇宙は永遠に存在し続ける。
→ただし、(暗黒物質が空間の膨張と同じ割合で増え続けるというのは)膨張の速度を早めながら大きくなってゆくということなので、しだいに銀河同士は遠ざかり、我々観測者にとっては暗い宇宙になる。

では、暗黒エネルギーの増え方は?

高田昌広准教授(東京大学)らの研究チームが、手がかりにしているのが暗黒物質
暗黒物質は重力で引き合い、時間と共に大きな固まりになる性質がある。

  • 暗黒エネルギーの増え方が少ない場合…重力が強く働き比較的短い時間で固まりになる。
  • 一方、暗黒エネルギーの増え方が大きい場合…重力が打ち消され、固まりに成長していかない。

すなわち、暗黒物質の集まりを調べれば暗黒エネルギーの増え方が分かる。
しかし、暗黒物質は光で見ることができない。→そこで、重力レンズ現象を利用する。

重力レンズによってできた光の歪み

重力レンズは銀河の周りにある大量の暗黒物質によって引き起こされる。暗黒物質の重力が空間を歪めるため背後の銀河から届く光が歪んで見える。
→歪みが強いとより多くの暗黒物質が集まっている。
暗黒物質の分布が時間と共にどのように変化してきたかを調べることで暗黒エネルギーの増え方が分かる。
国立天文台との共同研究。すばる望遠鏡に世界最大級の超広視野カメラを取り付けて観測*4する。来年にはカメラが取り付けられ、来年度の終わり頃には観測がスタートする予定。2016年頃には最初の成果が出る。
→暗黒エネルギーの増え方が分かるかもしれない。

暗黒エネルギーの提唱

アインシュタイン一般相対性理論によると宇宙は重力によって収縮し、いずれ潰れてしまう可能性があった。しかし、当時、宇宙の大きさは変わらないものと考えられており、アインシュタインもそれを支持していた。そこで、アインシュタインは宇宙を止めておくために相対性理論の方程式にある辻褄合わせをした。
存在の確認されていない宇宙項を導入したのだ。宇宙項は暗黒エネルギーと同じように反重力を生み出すものだった。
しかし、その後、宇宙の膨張が発見されるとアインシュタインは宇宙項を取下げ、生涯最大の失敗と悔やんだと言われている。

生命誕生と暗黒エネルギーの関係

ティーヴン・ワインバーグ博士(テキサス大学)「たまたま私たちの宇宙では、暗黒エネルギーの量が生命が誕生するうえでちょうど良い量だった。」
私たちが存在する宇宙以外にも、数多くの宇宙が生まれた可能性があるが、計算上ほとんどの宇宙では暗黒エネルギーの量が多くなり過ぎるために銀河ができるまえに宇宙に存在した物質が拡散してしまった。私たちの宇宙は暗黒エネルギーの量が極めて少ないケースだった。その結果、物質は拡散してしまうこと無く、地球が生まれ生命が誕生した。

*1:新しい時代の宇宙

*2:古い時代の宇宙

*3:当時、50億年前までの宇宙の膨張速度は正確に測定されていた。博士は新たには76億年前の宇宙の膨張速度を調べて比較した。

*4:一度に大量の重力レンズ現象を観測する