一週間de資本論 第3回「不景気分析」の視聴メモ

番組詳細

タイトル: http://www.nhk.or.jp/tamago/program/20100930_doc.html
screenshot screenshot
放送日: 2010年09月29日(水)
再放送: 2010年10月06日(水) 午前5:35〜
内容:

マルクスの「資本論」を分かりやすく読み解く3回目は「恐慌のメカニズム」をテーマに送る。マルクスは同書の中で19世紀のイギリスで起こった景気と不景気の循環について考察。資本家が労働者を雇って利益を挙げる営みそのものの中に、急速に起こる不景気、すなわち恐慌の原因を見て取ろうとした。一方で20世紀以降、さまざまな経済政策を使って政府が景気をある程度コントロールできると考える経済学者も現れている。リーマンショック以後の世界経済について発言している同志社大大学院教授の浜矩子さんを迎え、マルクスが論じる恐慌のメカニズムが現代人に何を問い掛けるのかを考える。

出演者 (※敬称略です。)

以下、視聴メモ。内容は番組を書き取っただけのものですが、(私自身が理解しやすいよう)だいぶ加工しています。あしからず。

今、なぜ資本論なのか?

現実に起こる恐慌の原因は、資本主義的生産の衝動に対する大衆の貧困と消費の制限である。

資本論 第3巻5編30章

資本主義が進むほど貧困は広がる。消費は冷え込み急速な不景気になる。そう、恐慌は確かに起こるのだとマルクスは考えていた。
ところが、20世紀になると恐慌は防ぐことが出来ると考える経済学者が現れる。ジョン・メイナード・ケインズは政府の財政政策、中央銀行の金融政策によって景気はコントロール可能だと考えたのだ。
そして21世紀、世界経済はリーマンショックから立ち直ったものの、ユーロ危機を始め様々な不安材料を抱えたままだ。現代の世界経済は19世紀の資本論という鏡に照らすことでどのように見えるのか?
今、なぜ資本論なのか? ――恐慌のメカニズムに挑む。

資本論と恐慌

労働者の貧困の問題こそ、資本主義が引き起こす恐慌の鍵を握っている。しかし、マルクスは恐慌という章を改めて書いたわけではない。むしろ、全体に散りばめていると言える。

機械装置と大工業 『資本論 第1巻4編13章』

工場の機械化によって失業者が生まれる過程について書かれている。

  1. 労働者が賃金以上に働いた労働時間が、資本家の利潤となる。
  2. その利潤は新たな資本として工場の機械化に使われる。
  3. 機械化が進むと労働者が余り、失業者が増える。
  4. 機械化によって弾き出され、貧しくなった労働者は工場が産み出した商品を買うことができない。

それが、マルクスが考えた恐慌のメカニズムの一つであった。19世紀には、ほぼ10年ごとに恐慌と繁栄の波が繰り返された。
第1巻を書き上げたマルクスは、続く第2巻・第3巻でその恐慌について詳しく触れる予定であった。しかし、志半ばで死去。残された草稿を元に、友人のエンゲルスが編集・加筆して出版したのが現在の『資本論 第2巻・第3巻』である。

資本論が恐慌について触れた部分に迫る

利潤率の低落は新しい独立した資本の形成をさまたげ、それによって資本主義的生産過程に脅威を与える。

それは投機、恐慌、過剰資本と相並ぶ過剰人口を促進するからだ。

資本論 第3巻15章1節
  • 利潤率とは、どれだけの資本を投資したときにどれだけの利潤が得られるかという割合。
  • すなわち、利潤率の低落とは投資をしても段々と儲からなくなるということ。
  • 過剰人口とは、いわゆる失業している人々。

10年周期の恐慌がなぜ起きるのか?

(※先程の、恐慌のメカニズムと重複する。)

  1. 不況期、資本家は安い賃金で労働者を雇うことが出来る。賃金が安いため、労働者を次々と雇う。
  2. (利潤により?) さらに、工場を増やしてゆく。すると、賃金を上げざるを得ない。
  3. そうして、賃金が上がってゆく。すると、これが負担になる。労働者の首を切り機械化をおし進めることで効率化を図る。
  4. 工場で生産されたものは売らねばならない。買い手は誰か? 労働者である。
  5. しかし、賃金を得ていない労働者は購入できない。よって、生産したものが売れない。景気が悪くなる。

が繰り返すのだという。
この繰り返しも、資本家にとっては仕切り直しができるというメリットがある。さらに、弱い企業は強い企業に吸収されてゆき、強い企業はより効率を高めることができる。このような、資本主義のいわばガス抜きのお陰で社会は発展してゆくのである。

マネーの暴走

資本論に書かれている恐慌のメカニズムは「失業者の貧困が招く景気循環」だけではなかった。資本主義につきものの、マネーの暴走が引き起こす恐慌についても書かれている。それは、19世紀のイギリスで起こった鉄道株のブームに絡む恐慌。
1820年代、鉄道が実用化されると大量運送が生み出す莫大な富を目当てに次々と鉄道建設計画がたてられた。建設の資金を賄うために鉄道株が発行さた。資本家はこぞって銀行からお金を借り入れ、鉄道株を買いあさった。
しかし、そこには大きな問題があった。鉄道建設には長い時間がかかるのだ。いくつかの計画で建設工事が難航していることが明らかとなり、鉄道株のブームに陰りが差し始める。この時、マルクスエンゲルスがバブルの弾けるキッカケと考えたのが1846年に起きた、イギリスの農産物の不作。
穀物を輸入するため、イギリスから大量の現金が流出。資金繰りが苦しくなった銀行や企業が次々と倒産。この時、鉄道株も大きく下落した。
こうした投機的な株式や債券を、マルクスエンゲルス利子生み資本さらには空資本と呼んだ。

利子生み資本において、資本関係はもっともよそよそしい呪術的な形態に達する。
ここで『G = G'』――すなわち、より多くの貨幣を生む貨幣、自己を増殖する価値を、両極に媒介する過程抜きでもつのである。

G=W=G' とは、資本を投資し、人を雇い、工場を作り、そこで利益を上げることを表していた。G=G' は、お金を貸してお金を増やすという形。お金がお金を生むように見えるため、呪術的形態と表現している。

  • fiktiv /fiktiːf/ = 架空の、虚構の

現代では、空資本が巨大なまでに膨らんでいる。最初に投資が行われるのは(株が)発行されたとき。そして、その企業の配当が良ければ株価自体が上がってゆく。が、その当初との差額は投資されたものではない。では、どうやって上がったのか? 株を買いたい人同士が一種の賭け事を行い、株主同士が相互に喰い合っているのだ。そして、株価がどんどん上がってゆく。これが fiktiv だと言っている。資本主義は空資本を生み出す、そして最終的には(そのバブルが)弾けざるを得ない。

大恐慌

1883年、マルクス死去。その後、10年ごとの周期的恐慌は起こらなくなった。以降、恐慌は不定期に勃発するようになる。
そして1929年、世界大恐慌に至る。なぜ大恐慌に至ったのか?
マルクスが観察した資本主義の形態とは変わったから。資本主義が自由でなくなり、独占や寡占が始まったから。」
独占が進むと株主?と資本が手を結んで何らかの処置をしてくる。すると、恐慌はすんなりと起こらなくなる。これは、ある意味ではマイナス。恐慌は先延ばしされただけ。やがて、溜まったエネルギーが爆発的に放出される大恐慌が起きる。大恐慌に至るような下地ができるようになってしまったのだ。

資本論が持つ現代性を掘り下げる。ここから浜矩子氏が加わわり対談形式となる。

※敬称略です。
浜「資本論は英語で読んだ方が解りやすい。」
堀尾「現代的な金融危機というのは、証券のクライシスといったところがあり、19世紀の経済危機とは本質的に異なる気がするが。」
浜「基本的な動きとしては、マルクスが言った通りのことが今も起っている。ただ、――空資本の空化。空資本の空の部分がどんどん大きくなっている。その背後にはグローバル化というマルクスの時代にはなかった新しい現象がある。そういった格好で、リーマンショックなどが起きている。」
的場「マルクスの時代は金本位制であった。金本位制は経済の拡大を止めるが、ある意味で景気を支える役割を果たしていた。これが、管理通貨制度になったことで明らかに変化している。」
浜「ケインズは、管理通貨制で人類は恐慌から開放されると言っている。」

金本位制
中央銀行が持っている金の量で通貨の発行量が決まってしまう制度。よって、人為的に通貨の量を調節することで景気をコントロールすることはできない。
管理通貨制
中央銀行が通貨の発行量を意図的に調節して景気をコントロールするための仕組み。これを提唱したのが、20世紀を代表する経済学者ジョン・メイナード・ケインズ

ケインズは、もう一つ景気をコントロールする方法を提唱した。それは財政政策。景気を刺激するためには、国は借金をしてでも公共事業を行うべきだ。
堀尾「恐慌はある程度抑えることが出来るようになったのか?」
浜「ところが、新しい恐慌の力学を産み出してしまっている。恐慌を止めるために財政政策を行ってきたが、今は財政が世界中で危ない。財政が破綻することが次の恐慌をもたらしかねない。ミイラ取りがミイラになる財政恐慌が差し迫った問題になっている。」
的場「国家が借金をするだけ借金はかさむ。当然限界がある。世界の国民総生産高が5千兆円位、国の借金が1千兆円や2千兆円というのは払いきれない。こういった状況になったときに政策というのはほとんど無意味になってしまう。」
浜「財政政策や金融政策といった、いわばレスキュー隊がいるから、今は恐慌という大遭難を我々が経験してもレスキュー隊が来てくれる。だが、財政破綻が問題になってきている。金融政策もやることがない。レスキュー隊がレスキューを必要とする状態。」
的場「有効需要がもはや有効需要にならない。逆に言えば、世界国家・世界銀行というものがあれば世界中から税金を一箇所に集め、それを梃子に有効需要を創出できる。いや、世界銀行はある、IMF という名の。しかし、税金という担保を持っていない。銀行も国家単位でしか動けない。が、資本の方はグローバルに動いている。そのツケを個々の国家に回しているが個々の国家はもうツケを払いきれない。それを解決するにはもう世界国家しかない。」
浜「そこには、面白さと恐怖がある。世界国家というのは嫌だ、地球統一国家は避けたい。それを避けながら現代版の恐慌を回避してゆくにはどういった知恵が必要か。その示唆が資本論にはあるのかもしれない。」
浜「今、世界中で超低金利。利潤率がほとんどなくなってきている。もう、恐慌のさなかに我々はいる。」
的場「まさに貯金がそう。利子率が低すぎて利潤が得られなくなっている。そうなると、老人国家は立ちゆかなくなる。」
浜「世の中で成長戦略が必要だ、ということが盛んに叫ばれているが、今必要なのは成熟戦略。成熟経済をうまく回してゆく、そのための新たな分かち合いの構図。何でも小さくなってしまっているので、それをうまく皆で分かち合っていかないと回答は出てこない。」
的場「資本主義は、自らの経済を破滅まで持ってゆく。マルクスの発想は、労働者が立ち上がることでそれを止められるというもの。経済が勝手に進んでゆき一番損をするのは労働者。だから、そのために自分たちが階級闘争をしてある意味での所得の再分配など、貧しい人々が物を買えるようにしたりだとか。そういった可能性を主張することができる。」
浜「労働者という言い方は資本論の時代で、今は市民と言い換えることが出来る。市民たち、グローバル市民たちの力で破滅を回避する。という発想が必要。」